AIエージェント時代と金融サービスの未来変革
分析結果
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- AI
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- 42
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- AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 知見(Activate Insight) AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 Insight | 2025年4月18日 この記事は約12分で読めます 大規模言語モデル(LLM)を基盤とする生成AIが登場してから2年余り立ちましたが、進化のペースは加速しています。特に、生成AIをベースにして、自律的にタスクを実行するAIエージェントが急速
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AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 知見(Activate Insight) AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 AIエージェント時代と金融サービスの未来変革 Insight | 2025年4月18日 この記事は約12分で読めます 大規模言語モデル(LLM)を基盤とする生成AIが登場してから2年余り立ちましたが、進化のペースは加速しています。特に、生成AIをベースにして、自律的にタスクを実行するAIエージェントが急速に注目を集めています。自律的なAIエージェントは、生成AIや従来のAI技術を統合し、柔軟で高度な機能を提供します。これにより、AIエージェントは複雑なタスクや多様なユーザーのニーズに対応できるようになります。 一方で、金融業務は、言語処理を要する業務と、膨大な取引データの分析などのデータ処理を必要とする業務の両方において、AIとの高い親和性を持っています。現在、AIによる変革が続く金融サービス業界は、生成AIにとどまらず、AIエージェントが引き起こす変革の時代に突入しています。 本記事では、AIエージェントの仕組みや機能構造や、時代の流れにおいて金融業界にどのような影響を与えて、人間とAIエージェントの共同作業で金融サービスの未来をどう形作ることになるでしょうか、を解説します。 AI Technology Outlook 金融 1.AIエージェントとは AIエージェントにはさまざまな定義がありますが、簡単に言うと、AIエージェントとは、動的な環境の中で独立して相互作用できるデジタルシステムのことを指します。このようなシステムは、もともと大規模言語モデル(LLM)の登場前から存在していましたが、生成AI(LLMベース)を活用したAIエージェントは、与えられた目標やコンテキストを理解し、自ら行動計画を立て、オンラインツールやデータを駆使してタスクを完了させる能力を持っています。さらに、他のエージェントや人と協力して学習し、記憶を活用することで、パフォーマンスを向上させることも可能です。つまり、AIエージェントは、LLMだけでなく、データベースアクセス、API連携、ルールベースエンジン(従来のAI技術)、外部システムとのインターフェースなど、さまざまなコンポーネントを含んでいます(1)。 図1は、生成AI(LLM)とAIエージェントのワークフローの違いを示す概念図です。生成AIは基本的に人間がワークフローに関与し、AIシステムの意思決定や作業に直接影響を与えるアプローチです。一方、AIエージェントは、AIシステムが自律的に与えられたタスクを完了し、人間は監視役として、異常や予期しない状況が発生した場合に介入する形になります。ただし、OpenAI-o1のような推論モデルは、一つのプロンプトで複数のステップを必要とするタスクを自律的に遂行できるため、AIエージェントとの比較が難しく、これは進化の過程であることを理解する必要があります。 図1 生成AIとAIエージェントのワークフローの比較の概念図 マルチエージェントシステム(MAS) これまで説明したAIエージェントは、シングルエージェントシステムに基づいています。これは、小規模なチームや組織がタスクやワークフローを行う形です。しかし、複雑なワークフローや大規模な組織には、シングルエージェントシステムだけでは限界があります。なぜなら、異なるドメインや大規模な組織では、それぞれに異なる知識やワークフローが必要だからです。この問題を解決するために提案されたのが「マルチエージェントシステム(MAS)」です。 MASでは、複数のエージェントが相互に作用し、情報を共有しながら、複数のドメインにまたがるタスクを効率よくこなすことができます。また、エージェント同士の相互作用により、集合知や新たな解決策を生み出すことが期待されます。 マルチエージェントを単一の機能や属性(図2参照)として捉えた場合、AIエージェントは与えられたタスクに対して、目標達成のためにシステムを動的に構築します。その主な機能・属性は以下の通りです。 図2 一般的なAIエージェントの主要機能 1)計画:目標達成のために、必要なアクションやタスクを体系的に設計・調整します。 2)拡張性:AIは外部のツールやリソース(データベース、API、特定のソフトウェアなど)を活用し、機能を拡張します。 3)エンリッチメント:多様なデータを様々な状況で活用し、複数の視点から洞察を得ます。 4)接続性:複数のAIエージェントが連携し、情報を共有してタスクを分担し、複雑な問題や大規模なプロジェクトに対応します。 5)プロアクティブ:次に行うべきタスクを自分で決め、非自明なタスクを解決することで知識を広げ、エージェントを成長させます。 6)適応性:基本的な情報や変動するデータを取り込み、継続的に更新します。 LLMの課題を解決・拡張する機能 これまでに説明したAIエージェントの主要機能に加え、LLMを活用する際には、メモリ機能の追加、外部ツールや情報源へのアクセス、環境との連携などを行うことで、さらなる機能拡張や課題解決が可能になります。 (1)メモリとコンテキストの保持 LLMは状態を保持せず、過去のインタラクションを記憶しませんが、AIエージェントはメモリ機能を組み込むことで、過去のやり取りを記憶し、長期的なエンゲージメントにおいて一貫性を保ちます。これにより、過去のコンテキストを活用して、より効果的な対応が可能になり、ユーザーエクスペリエンスが向上します。 (2)非同期処理と並列処理での機能向上 LLMは入力を同期的に順番に処理しますが、AIエージェントは複数のタスクを同時に処理し、非同期に動作することができます。これにより、リアルタイムのインタラクションが効率的に行え、複数のクエリやタスクを同時に処理する際の効率や応答性が向上します。 (3)ファクトチェックとリアルタイム情報アクセス AIエージェントは、リアルタイムでデータを検証し、外部ツール(データベース、Web API、インターネットなど)と連携することで、LLMが抱える「幻覚」や誤った情報を軽減できます。これにより、最新かつ正確な情報が求められるアプリケーションにおいて特に有用です。また、特殊な数学エンジンやソフトウェアとの連携により、高精度な数学演算が可能になり、技術や科学分野でも大きな役割を果たします。 2.金融サービスにおけるAIエージェント:インパクト、ユースケース、活用事例 今日の金融業界は、人材の確保が難しく、頻繁な業務の切り替えによる生産性の低下、競争の激化、などさまざまな課題に直面しています。金融機関は、単にタスクをこなすだけでなく、リスク分析や市場の変動予測、リスクに基づく意思決定を迅速かつ正確に行う「考えるシステム」を求めています。自律型AIエージェントは、膨大な知識と高度な専門性を備えており、これらの課題を新たな機会に変える可能性を秘めています。 AIエージェントを活用する利点 AIエージェントの導入により、金融機関や市場参加者は、業務の効率化、顧客体験の向上、サービスやビジネスモデルの革新、コンプライアンス強化、意思決定の精度向上など、さまざまな分野で競争優位性を確立することができます。 金融サービス業におけるAIエージェント活用のメリットは、具体的には以下の4点に集約されます。 1)業務の効率化:データ入力、コンプライアンスチェック、取引処理などの反復的な業務をAIエージェントが自動化することで、生産性が向上し、人的エラーの削減が実現します。また、従業員はより戦略的な業務に集中できるようになります。 2)顧客との接点の強化:AIエージェントは、顧客に対して高度にパーソナライズされた対応を提供します。顧客は、自分の財務状況を管理し、最適な意思決定を行い、個々の目標やリスクレベルに応じた戦略を立てることができ、これまで以上に強力なサポートを得ることができます。 3)イノベーションの促進:市場動向や顧客のニーズに応じて戦略をリアルタイムで調整できるパーソナライズされたロボアドバイザーや、適応型資産管理システムなど、新たな金融ツールの開発が可能となります。 4)リスクマネジメントやコンプライアンスの強化:AIエージェントは、リアルタイムでリスク評価を行い、疑わしい取引を監視するほか、発生しうる脅威や異常事象に迅速に対応できます。また、規制報告の自動化や、複雑な金融規制の遵守を確実に行うことで、コンプライアンス体制を強化します。 金融サービスにおけるAIエージェントのユースケース 金融サービスは、銀行業、保険業、証券業、資産管理業務、カード業務など多岐にわたります。AIエージェントのユースケース開発も進んでおり、共通のユースケースもあれば、特定のドメインに特化したものも存在します。以下の表1は、金融機関で期待される主要なユースケースを示しています。 表1 金融サービス業におけるAIエージェントのユースケース事例 私たちの調査では、金融業界における生成AIの活用は、顧客サポートや知識獲得などの業務効率化にとどまり、業務の中核部分への適用は遅れています。この遅れの原因としては、生成AI導入における技術的な課題や、モデルの幻覚問題からくる不正確なアウトプット、データセキュリティへの懸念、投資収益判断の難しさなどが挙げられます。しかし、AIエージェントが持つメモリやコンテキストの保持能力、非同期処理や並列処理の強化、事実確認やリアルタイム情報の活用などの優位性が活かされれば、金融サービス業における中核業務への活用が期待されます。 AIエージェントの金融サービスでの早期採用事例 AIエージェントは、金融業界のデジタル変革をリードしています。従来のルールベースのAIから、LLM(大規模言語モデル)を活用した生成AIへと進化し、変革の最前線に位置しています。金融業界はまだ学習段階にありますが、いくつかの先行事例が実践されています。以下の3つの事例を紹介します。 Moody’s ~金融分析エージェント ムーディーズは、プロジェクト管理などの小さなタスクを担当するAIエージェントを含む35のエージェントを開発し、それらを監督エージェントと連携させた「マルチエージェントシステム」を構築しました(2)。このシステムを使って、SEC提出書類や業界データを分析し、研究能力を強化しています。AIエージェントは特定のタスクに特化し、他のエージェントが結果を検証することで、複雑なワークフローの実行が可能となっています。 Auquan ~金融業特化型デジタルアナリスト AIエージェントによるアナリスト業務の自動化が進んでいます。スタートアップのAuquanは、OpenAIの「Deep Research」とは異なり、金融業界特化のレポート作成を効率化するAIエージェントを開発しました(3)。例えば、財務データ(プレゼンテーションやPDFなどの非構造的データを含む)やインターネット上の情報を収集・分析してレポートを作成します。この方法は、人間によるレポート作成よりも80~90%安価で、高い生産性を実現します。顧客にはMetLife、UBS、Capital Groupなどがあります。その後、Auquanはリスク管理、コンプライアンス、持続可能性のワークフローにも展開すると発表しており、現在は実践されていると見られます。 Capital One ~チャットコンシェルジュエージェント Capital Oneは、複数のAIエージェントを使用し、車の購入に関する顧客の質問に包括的に対応するチャットコンシェルジュを導入しました(4)。車両比較から試乗予約まで、購入プロセス全般を支援し、顧客の負担を軽減します。Llama AIベースのカスタマイズされたモデルにより、顧客の質問に即座に対応し、下取り見積もりや営業担当者とのアポイントメント設定など、複数のタスクを同時に実行することができます。 BNY ~マルチエージェントシステムへの取り組み BNYは、13の特化型エージェントを含むマルチエージェントシステムを導入し、営業担当者にAIエージェントを通じてリードジェネレーションや推奨事項を提供しています。AIツール「Eliza」は、クライアントのニーズを迅速に把握し、営業効率を向上させるとともに、複数のエージェントが協力して最適な結果を導きます(5)。さらに、OpenAIとの提携により、BNYはAPIを活用してElizaに新機能を統合し、これによって複雑なタスクの解決やインサイトの取得が可能になります。最先端の推論モデルやエージェント機能(Deep Research、Operator)を活用することで、Elizaの精度と自律性の向上が期待されています(6)。 まとめ 上記の金融機関で実践されているAIエージェントの活用事例は、マーケットトレンドのインテリジェンス分析や、乱雑なメタデータからの情報抽出、複雑な顧客ニーズへの対応、コンプライアンスの管理などに限られています。しかし、ユースケースの開発とそれに伴う技術の進化は着実に進んでおり、例えば富士通はリスク対応エージェント(7)や会議エージェント(8)などの技術を開発し、社内および金融機関を含む顧客とともに、AIエージェントの業務への影響や導入の最適なプロセスを模索しています。 3.人間とAIエージェントが共創する新たな金融サービスの未来像 これまでの議論を踏まえると、AIの自然言語理解能力の進化により、人間と機械のインタラクションはますます直感的で柔軟になりつつあります。この進展を背景に、AIエージェントが業務プロセスを自律的に実行し、金融サービスの未来を牽引する姿が浮かび上がります。しかしながら、AIエージェントシステムの導入は、金融市場におけるシステミックリスクやボラティリティの増大、労働市場への影響、さらには新たなセキュリティリスクをもたらす可能性も孕んでいます。また、倫理・プライバシー問題や自律的な意思決定による結果の不透明性も懸念されます。したがって、金融サービスにおけるAIエージェントの自律性と、それに伴う課題への対応とのバランスが重要となります。 実際、AIエージェントの時代において、金融サービスにおける人間の役割は再定義されるべきです。具体的には、従来の「業務オペレーター」としての役割から、AIシステムを監視し調整する「オーケストレーター」へのシフトが求められます。人間は業務実行の進行状況を監視し、必要に応じて介入や調整を行います。推論能力の向上、幻覚対応技術の進展、そして倫理やプライバシーリスクの抑制により、人間の介入は次第に最小限に抑えられるでしょう。加えて、人間はAIと協力して、感性や知性、身体的な器用さを活かした創造的なタスクに集中し、それを拡大していくことが予想されます。 AIエージェント技術の革新は急速に進んでおり、金融サービス業界がその変革力を最大限に引き出すためには、価値主導の目標を設定し、必要なスキルや能力を強化することが不可欠です。さらに、変更管理やリスクマネジメントを含むガバナンス体制の整備も重要です。これらの準備を整えることで、人間とAIエージェントが協力しあう未来の金融サービスが現実のものとなるでしょう。 参考文献 金 堅敏 (2025年3月)「生成AI技術の限界を超えて: AIエージェントの革新」を参考されたい。 Moody’s (2024) “GenAI’s transformative potential in the financial sector: the evolution of agents”. Ari Lehavi et al. (2024) “The rise of the digital colleague: evaluating companies with Moody's AI agents” Auquan(Jan 14, 2025)“Auquan Enters 2025 with Breakthrough AI Innovations and Financial Services Impact” Jocelyn Mintz (January 31, 2025) “Capital One’s new AI agent will help you buy your next car” Emilia David (February 25, 2025) “How big U.S. bank BNY manages armies of AI agents” Isabelle Bousquette (February 26, 2025) “BNY, America’s Oldest Bank, Signs Multiyear Deal With OpenAI” 富士通プレスリリース (2024年12月) 「世界初、脆弱性や新たな脅威への事前対策を支援するマルチAIエージェントセキュリティ技術を開発」 富士通プレスリリース(2024年10月) 「AIが人と協調して自律的に高度な業務を推進する「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を提供開始」 インサイトペーパーをダウンロード 金 堅敏 博士(国際経済法) Dr. Jianmin Jin (Ph.D in International Economic Law) 富士通株式会社 チーフデジタルエコノミスト マーケティング推進室 シニアディレクター 1998年 富士通総研 主席研究員、2020年 富士通株式会社 チーフデジタルエコノミスト。主に世界経済、デジタルイノベーション/デジタルトランスフォーメーションに焦点を当てた研究に従事。著書物に「日本版シリコンバレー創出に向けて」(2020年)などの書籍。 関連コンテンツ 生成技術の限界を超えて: AIエージェントの革新 生成AIの限界を突破する自律型AIエージェント。進化する推論モデル、ユースケース、企業事例を紹介し、人とAIが共創する未来の展望を示します。 生成AIが実現する次世代インテリジェント製造の革新 生成AIが製造業にもたらす革新的な変化を解説。生産性向上、顧客体験のパーソナライズ、次世代インテリジェント製造実現に向けたAIエージェントの活用など、最新事例を交えて紹介。 生成AIで革新する銀行業 生成AIは銀行業務の効率化、顧客体験の向上、意思決定の革新をもたらします。本ペーパーでは、生成AIのユースケースとビジネスインパクトを探り、経営者への示唆を提供します。 page top